【レビュー】原田武金属造形展「記憶の中の景色」
2024.6.18(火)
「ひろしまアートシーン」をいつも見てくださっているという太田川蟹さんが、展覧会のレビューを寄せてくれました。広島県内には、このサイトに掲載できていないギャラリーや美術館がたくさんあります。【ARTICLE】は、そういった場所や過去のものもふくめ、さまざまな広島のアートシーンをいろいろな視点からもお伝えできる場になればと思います。
広島市内から車で1時間半。三次市の三良坂平和美術館で原田武金属造形展「記憶の中の景色」が開催された。会期終了の1日前に滑り込みで鑑賞することができた。
会場はコンパクトなホワイトキューブで、壁面や白い展示台に小作品が並ぶ。小作品といってもその一つずつが細密な彫金技術に彩られており、実際のスケールに比してその存在感は決して小さくない。近寄るほどにいちいちウワーッと言いたくなるほど繊細な模様に覆われている。制作過程を収めたビデオを見ると、作家本人はかなり恰幅の良い人であり、そのデカい図体からはどうにも想像しがたい緻密な仕事が魅力と言えるだろう。魅力?すなわちギャップ萌えだ。
「私の作品群は、虫や小動物や植物など、身近にある小さい世界をモチーフにしています。」(展覧会チラシより)
作家が述べる通り、私たちの身の回りに溢れる小さな生命が多く並ぶ。本展ではチョウやトンボなど飛翔する生きものが多かったように思う。それらほとんどが羽根を大きく広げており、非常に薄い羽根には独特の文様や透かしのような表現が見られ目を引いた。
これまた多かったのが、それら生きものたちの舞台となるコンクリートブロックや車止めなどの無機物であり、羽根などの薄く軽いものと重厚なそれが良いコントラストとなっていた。生きものはともかく、コンクリートブロックをせっせと精度高く模造する金属作家は珍しいのではなかろうか。あまりにリアルで笑いが込み上げてくる。確かにこんなシーンあるある、と。なお作家によると、実物を横に置いて何度も測ったり質感を確かめながら作ったそう。
こうした構成は、作家個人の記憶の中の風景に根ざしているそうだ。しかし、それほど特別なものでもないだろう。飛び立とうとするてんとう虫と追いかけるクモの刹那にはそうそうでくわさないにしても、街灯の周りを飛び交う蛾や、ボトボト落ちたアイスクリームに群がる蟻の姿は、都市生活の中できっと誰しも見たことがあるはずだ。
その眺めが美しく感じられるかは人それぞれだが、原田にはそのシーンこそが美しく、半永久的なマテリアルで表現するに値するものなのだろう。上の作品だけでなく、食うもの食われるものという構図や、「飛んで火に入る夏の虫」を想起させる作品など、生と死が入れ替わる瞬間を留めたものが多かったのは、そうした理由ではないだろうか。筆者には、劇的な光景を定着した作品群が特に力強く感じられ、魅力的であった。
日常のワンシーンという意味では、生きものが活動する舞台、舞台となる無機物、さらにそれらを取り巻く状況、環境までも作られていたらどんな情景だろうかと想像する。小さな景色を点在させたインスタレーション、あるいは一部屋まるごと金属製の大型作品。ウーンぜひとも見てみたい。説得力のある写実表現は面白い。
さて、鑑賞に訪れた日はよく晴れた土曜日で、ドライブするには最高の日和であった。三良坂で有名な豆腐屋さんで昼食をとり(ただし行列待ちは必至)、ゆったり美術鑑賞。リノベしたコーヒーショップに移動し感想をだべりつつ、まったり過ごすことができた。近所には三次もののけミュージアム、奥田元宋·小由女美術館もあったり、県北アートも見逃せない。
(広島在住のアート愛好家・太田川蟹)
原田武金属造形展「記憶の中の景色」
会期:2024.4.5~2024.6.2
会場:三良坂平和美術館(広島県三次市三良坂町三良坂2825番地1)
鑑賞日:2024.6.1
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