広島県広島市を拠点に活動するアーティスト、川本実果の新作展覧会を gallery G にて開催します。
海や川に恵まれた広島で生まれ育ち、かねてから水に深い関心を寄せる川本は、広島市立大学で染色を学ぶ中で素材への探究を深め、発泡バインダーを用いた実験的手法によって水面の波紋を表出する独自の表現を展開してきました。2023年より制作している「Reflection」シリーズでは、水面への映り込みと水の反射光による照り返しという二つの現象に着目し、今年4月から5月にかけて iti SETOUCHI(広島県福山市)の it’s CUBE にて、これらを主題とした個展「水影 – Double Reflection」を開催しました。本展は、そのタイトルとそこで提示された新たなアプローチをさらに発展させたものです。
「水影(みづかげ)」とは、水面がもたらす映り込みと照り返し、すなわち二つの反射(Double Reflection)を包括する古語です。川本はこの言葉を調べる中で、「水影(すいえい)」という別の読みがあり、それが“逃水(にげみず)”——遠方に水たまりがあるように見えながら、近づくとその先へと逃げるように移っていく現象——を意味することを知りました。
また前作「水影 – Double Reflection(2/2)」では、水面の照り返しのゆらぎを、布の織り目を重ねて生じさせる干渉縞(モアレ)で表現する、という新たなアプローチを提示しました。その後も干渉縞の現象を継続して探究する中で、川本はある一定の条件下において、縞が “遠くから見ると現れ、近づくと消える”という特異なふるまいを示すことに気づきます。
この視覚的現象は、まさに遠方からしか見ることができない“逃水”のようであり、「水影(みづかげ)」の表現のために探究してきた干渉縞が、「水影(すいえい)」を想起させるような現れ方をした点に、ささやかな必然を感じさせます。さらに、遠くからでしか観測できない干渉縞のふるまいは、川本の探究を視覚の成立そのものの問い直しへと導いています。
本展では、干渉縞による作品を中心に、水影(すいえい)という幻影の存在を通して、私たちの空間認識や知覚の相対性を見つめる新作群を発表します。発泡バインダーによる凹凸の波紋表現を出発点に、工芸と絵画、さらには平面と立体の領域を横断しながら更なる展開を見せる、川本の探究の現在が提示されます。
川本 実果 KAWAMOTO Mika
1999年広島県生まれ。2022年に広島市立大学芸術学部デザイン工芸学科染織造形分野を卒業、2024年に同大学大学院芸術学研究科(博士前期課程)造形芸術専攻を修了。
主な個展に「水影 – Double Reflection」(iti SETOUCHI it’s CUBE、広島、2025年)、「Fleeting」(gallery G、広島、2023年)。
主な受賞歴に、広島市立大学卒業制作優秀賞・芸術資料館買い上げ、修了制作優秀賞、FACE展2023オーディエンス賞など。
Website: https://mika-k.com/
instagram: https://www.instagram.com/mika._.artworks/
