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【レビュー】杉田柊馬 初個展「遭遇」

会場風景

初個展。なんと清々しい響きだろう。気迫が伝わってくる。それはもう顔面蒼白ならぬ顔面緑色と化した肖像の掲載されたDMの時点で力強く、なんだか目を離せないヴィジュアルになっている。ともかく、杉田柊馬の初個展「遭遇」である。

大きな木彫の占める会場。最初に出会ったのは植物人間である。ちょうど人体と植物の中間的な存在で、腕は葉っぱ、胴体と足は茎、顔はお花となっている。少し高めの位置からじっとこちらを見つめているような表情、というか無表情というべきか。どこか超然とした印象を受ける。同時に、人間がムリヤリ植物のコスプレをしているような惚けた姿にも見受けられる。シリアスとコメディの感覚が入り混じる人型木彫だ。

近づいてみると、荒々しく彫られた跡が模様のようになっていて心地よい。遠くから一べつした時の繊細でヒョロリとした印象とは異なり、大胆な削り跡のワイルドさも相まってたくましく感じられる。

後ろに回ると可愛いお魚さんが咲いている。変なことを書いているようだが事実である。あまりの唐突さに面食らったので、在廊していた作家に問うてみると「弟です」とのこと。ついでに花は「某有名歌手」で、足元は「おじいちゃん」だそうだ。足元の埋もれた巨人には気づかなかった。これは面白い。群像だったのか。つっこみ所がありすぎて逆に世界観がすんなり入ってきた。

ちなみに会場にはキャプションがなかったのでそれも問うてみると、意図的に置いていないとのこと。ないのかと残念がっていると、「この作品は《佇む》です」と教えてくれた。あるんかいと内心つっこみつつも、予想外の激渋なタイトルに心が掴まれた。よくわからんけど、負けた気分。

改めて足元を見る。おじいちゃん、中々にリアル。頭からヒトが生えてきて何を想っているのだろう。目線を逸らしているのが余計に意味深だ。

そして周辺には花弁がいくつか落ちている。朴訥とした空気感に儚さがプラスされている。花と化したヒトからひらひらと舞い落ちたのだろう。いや、単にボキッと折れたんじゃないかと訝しんでいると「作っている時にとれました」だそうで。やっぱそうよね。しかし直すでもなく、取り除くでもなく、足元に配したことで詩情を醸し出している点がニクイ。

奥にも大型の木彫作品。眺める前から先の作品と同じ世界観が貫かれているのがわかる。大木から多数の顔が生えている。てっぺんの歯を食いしばった顔を除き、ほとんどの顔が無表情な面構えに見えた。属性の感じられない彼/彼女らは一体何を語ろう/語るまいとしているのか。作家によると、森の中で生きる「木」や「花」に人間の顔をつけることで、彼らとのコミュケーションをより現実的なものにするという挑戦を行ったそうだ。そんな語る存在の言葉は、作家いわく「それは私を励ましたり、鼓舞したりもしますが、時に私自身の言動や存在自体を否定することさえあります」とのこと。

もはや神がかっているではないか。そういえば、本家のそれと比べるとより有機的かつグロテスクとさえ感じられるが、神話や伝承を表現したともいわれるトーテムポールを彷彿とさせる。木彫家が自然への信仰心を持っていてもなんら不思議ではない。関連の絵画作品(写真左)を見ても、樹木の幹にひっそりとしめ縄が結ばれているし、なにかオーラのようなものを発しているし、この見立ては遠からずだろう。 もう一つの絵画(写真右)を眺めていると、ここでも良きタイミングに作家の解説。本当はもっと大きな木彫にしたかったが叶わなかったので、せめて絵で表現したのは超巨大になった三つのミドリ顔の樹木型木彫、そして真っ赤な風船はわれわれ人間、だそうである。釈迦の掌ではないが、はるか人間のスケールを超越した存在がここでは目指されているのだ。ぜひともそのチャレンジを続けてもらいたい。

壁面には小ぶりなペインティング、そして大量のスケッチ、習作などが並ぶ。ともかく顔、に注目しているのがわかる。スケッチには、管見でもさまざまな著名作家の影響が思い当たるが、作家は学生である。多くの学びを通じて、いつか自身のアイデンティティの発掘、スタイルを打ち立てて欲しい限り。今後は大学院に進む予定だそうで、どのように変容していくのかがとても楽しみである。

会場入口

帰り際にふと気づいた、冒頭に触れた肖像。ずいぶん控えめな位置に展示してある。人工的なグリーンの照明が当たっているような色彩および陰影、呆然となにかを見つめる表情、爛々と輝く瞳から、いつか見たSF映画を思い出さずにはいられなかった。ともかく、今日も新しい才能との「遭遇」ができた。

(広島在住のアート愛好家・太田川蟹)

*写真は筆者撮影

杉田柊馬 初個展「遭遇」
会期:2025.12.12〜2025.12.18
会場:オルタナティブスペースコア
鑑賞日:2025.12.13

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