情報デバイスや映像、言葉があふれる現代において、私たちは自分の体で行ったことのない場所や体験していない出来事まで知ることができます。世界はどんどんクリアに見えるようになり、共有され、広がっています。その一方で、自分の体で触れたり、歩いたり、息をしたりして感じる世界との距離は、少しずつ広がっているように思えます。
私は制作の中で私自身の体が実際に感じ取れる範囲から生まれる「空間」を、線によって描き出します。それは、現実の場所をそのまま再現するものではありません。記憶のかけらや、心に残ったイメージ、感情、触覚などを組み合わせて、新しい空間としてつくり出しています。ここにおいて空間の奥行きは、線と線の関係によって表現されています。
私たちが実際に体で感じている空間はとても複雑ですが、空間に対する私たちの記憶は、単純で断片的な形として残ることが多いです。本展では、ねじれたレイヤーと重なりを使ってそれらをコラージュすることで、「単純にしないと理解できない人の認知」と「本来はもっと複雑な空間」のあいだにある、新しい空間のとらえ方を探ります。
佐々木こひな(ささき・こひな)
広島市立大学芸術学部デザイン工芸学科現代表現分野 在学。
アナログ描画の緻密なイラスト作品を通して、庭のように親密でありながら複雑な空間や、複数の時空間が重なり合う空間を描き出す。
近年は、イラストをアートとして成立させる手法に関心を持っている。
主な展示に「Colorful Pinholes」(THE POOL/広島/2025)、「走る美術館-HIRODEN ART TRAM-」(広島電鉄市内線車両内/広島/2024)など。
