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【ひろしまアニメーションシーズン✖️ひろしまアートシーン(レポート:3)】Hello!ひろしま ひろしまアーティスト・イン・レジデンス(H-AIR)招へい作家紹介展

今年から開催されるアニメーションの映画祭「ひろしまアニメーションシーズン2022」。

2022年8月に開催されるひろしま国際平和文化祭の中のメディア芸術部門のメイン事業として8/17(水)-8/21(日)まで開催され、今年がその1回目。
育成し学び合う「アカデミー」、表現を競い合う「コンペティション」、顕彰や評価を行う「アワード」の3本柱で実施され、
アステールプラザや横川シネマ、映像文化ライブラリー、galleryGほか市内各地に展開します。
市民・県民の皆様や国内外から広島を訪れる方々に、豊かなアニメーション文化に触れる機会を提供し、
アニメーションを含むメディア芸術をフィーチャーした各種企画を通じて次世代の育成につながるものとしてスタートします。

そしてこの度、ひろしまアニメーションシーズンのイベントのレポートやインタビューなどを行い、
ひろしまアートシーンならではのコラボレーションを行うこととなりました。
ひろしまアートシーンのメンバーが交代でさまざまな記事をお届けします。

今回のレポートは「Hell0!ひろしま」。
この展示の時からひろしまアニメーションシーズンにアルバイトとして参加してくれた並川詩織さんによるレポートです。

 

2022年5月31日から6月5日までの約1週間、ひろしまアニメーションシーズンのアカデミー部門にあたる「Hello!ひろしま」ひろしまアーティスト・イン・レジデンス(H-AIR)招へい作家紹介展が行われました。

季節は初夏、日に日に太陽の存在感が増す広島市中心部。最近までの2年間、秋田という涼しい地方で過ごしていた私にとっては、地元の馴染みある空気感に少しだけ懐かしさを覚えます。

本展では広島に滞在中のアーティスト3名の過去の作品や、彼女たちがそれぞれの滞在先でこれから展開しようとしている取り組みの構想が展示されました。私は本展で作品の搬入搬出に携わったほか、展示期間中の在廊も担いました。

出品アーティスト3名のうち2名は海外在住でした。昨今の世界情勢からH-AIRそのものの開催が危ぶまれてもいました。そんな状況でも、映像作品はデータとして容易に移動できるのが強みなのだということを改めて実感する機会となりました。

そんななかで開催にこぎつけた本展。展示作品は映像のみならず立体物の展示も含みます。小雨が降る中、作家の滞在している皆賀のレジデンスから会場へと作品を慎重に運びました。その他、自分の足で映画祭のチラシ配りを行うなど、第一回目の映画祭を一から手作りで築きあげているという実感がある現場です。

出展作家の一人である是恒さくらさんは広島県呉市の音戸出身です。是恒さんは国内外の海の民俗文化に焦点を当てた造形作品を多く発表していますが、今回のH-AIRでは初のアニメーション制作に取り組みます。各地でリサーチした海にまつわる民俗史や文化、物語などを元に、刺繍を中心とした3点の造形作品を展開しました。ミシンで縫ったかのように思えるほどの圧倒的な手業から、地域の文化に寄り添いながら丁寧にイメージをとらえようとする姿勢が伺えます。

刺繍を施されたオーガンジーが木漏れ日を受けたり、近くの池の水面から反射した光を受けて水を得た魚のように生き生きとするようだったりと、天候によって異なる表情を見せていたのが印象的でした。

イラン出身のマフブーベフ・カライさんは、実写映像と手描きイメージを巧みに融合するアーティストです。 実写の映像にアニメーションが連続的に重ね合わされたような作品は、見る者を彼女の世界に引き込み、魅了する力があります。

彼女は日本語にも関心を持っており、漢字の形状や成り立ちからインスピレーションを受けた映像作品や、俳句や季節をテーマとしたプロジェクトにも取り組んでいます。

そんな彼女が今回の初来日で発見する日常生活の驚きや、街中で収集している日本の思い出の品-彼女曰く”Memory”はこれから彼女にどんな影響をもたらすのでしょうか。

ナタ・メトルークさんはアメリカ在住のアーティストです。数々のループアニメーションや日常生活の一場面を切り取った短編アニメーションを制作しています。

例えば目先の人に手を振られたので手を振り返したら自分の後ろにいた別の人に向けたものだった、というような日常のよくある場面が 彼女の独特な世界観で表現されています。そのシュールさと少しだけブラックなユーモアには何度見てもつい口角が上がってしまう魅力があります。そこまで広くはない2階のスペースでの展示にもかかわらず、その作品数の多さとやみつき具合に、時間をかけてゆっくり観覧する方も少なくありませんでした。

通りすがりに立ち寄った来場者が多かったことも本展の特徴かもしれません。ガラス張りで外からも見ることができた是恒さんの大きな刺繍作品や、モニターに映し出されたアニメーション作品がギャラリーの敷居を下げていたのかもしれません。

会期中の半ばにはギャラリートークも行われ、是恒さくらさんとマフブーベフ・カライさんが登壇しました。当日は多くの来場者が訪れ、アーティストとの和やかな交流の場にもなっていました。

3名は広島の各地に現在も滞在中で、今後も作品制作を行うほか、ワークショップ企画も予定されています。


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ところで広島出身の私は、この春まで秋田公立美術大学の修士過程に在学していました。初めて長期間にわたって故郷を離れたあと、ふたたび広島に戻り、ひろしまアニメーションシーズンに携わっています。そのなかで、改めてこの街について考えさせられることがあります。それは「平和」の扱いです。ひろしまアニメーションシーズンは広島国際平和文化祭というイベントのメディア部門にあたります。広島の催しでは「平和」という言葉がしばしば使われてます。

出展アーティストのひとりであるナタ・メトルークさんはウクライナ出身です。昨今の世界情勢を踏まえて、ウクライナ情勢や「平和」についての関心からアーティストや作品を捉えようとする場面もありました。

しかし個人的には、3名のアーティストには被爆地としての広島という土地の記憶に過度に縛られることなく、各々が滞在する地域で肌で感じたこと、見聞きしたことを表現したり持ち帰って欲しいという思いがあります。同時に、アーティストにとって広島での滞在が新鮮でリラックスできるものであって欲しいとも思います。しかしそんなスタッフの心配は杞憂で、3名のアーティストは本展を終えたあと、すでにそれぞれの滞在先で独自の視点から地域を見つめ、土地に新しい経験をもたらしてくれているようです。今後の関わりのなかで、今後どのような展開へと発展していくのか、一緒にどんな場づくりができるかと、とても楽しみにしています。

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