インタビューソーダ割 Vol.1 入江早耶
2021.7.5(月)
こちらのコーナーでは近く展覧会の開催される作家さんにお話を伺うコーナーです。
スマホひとつでふらりと作家さんのもとへお邪魔します。
聞く人:平石もも(92project/元横川創苑マネージャー )
現在広島を拠点に、国内外でたくさんの展示に出品している入江早耶さん。
「消しかすアーティスト」としてテレビやウェブ、雑誌などさまざまな媒体で
見たことある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
彼女のコンセプトは、形を失ったとしても、そのものに宿った命には終わりがないという
輪廻転生とも言える、過去と現在の時間や物の価値の変換と循環。
消しゴムで消された絵の消しカスが立体となってその場に現れるという、
彼女の主たる活動となるシリーズは美術の知識がなくても人を驚かせるインパクトが
あると同時に、 二次元の絵がダストとなった後に三次元になる、水と水蒸気と氷の
状態変化のようでもあります。
作品のもつ繊細な手仕事や確かな造型力も勿論のこと、
錬金術のような鮮やかさとユーモラスも持ち合わせていて、見る者を楽しませてくれます。
7月10日から広島芸術センターにて個展が行われるのを前に、制作のことや展示のことを聞いてみました。
➖さかのぼると、昨年の春にアメリカ、NYにアーティストインレジデンスに行く予定だったところ、
コロナ禍で状況が変わってしまったんですよね。
昨春の渡米が延期になって、その後の機会もさらに延期になったという。
入江「去年の3月にNY行きが延期になったのが秋以降に延びたけど、
その時よりさらに状況が悪くなって。
その代わりリモートで去年の11月ぐらいまでNYとやりとりはしてました。」
➖リモートでレジデンスって何をやるんですか?
入江「オープンスタジオみたいなのがあって、自分の作品を紹介する時間をもらえて、
レジデンス作家同士や美術関係者がそれを見ていてやりとりしたり、
学芸員さんをと1対1で話をしたり。プレゼンばっかり。」
➖英語、鍛えられますね。
入江「めっちゃ鍛えられた(笑)。それから時差がキツかったです。深夜3時にプレゼンがあることもありました。」
➖向こうは昼間なのに。
入江「ランチミーティングとかもあったけどそれは出なかった(笑)」
➖こっちは全然ランチじゃないよって(笑)。
入江「NYに行けなくってから作りためていたものを広島芸術センターで発表したのが
今年1月の個展「大悪祭 HAPPY AKUMA FESTIVAL」でした。」
➖それから半年経った今回の展示が「大悪祭II HAPPYAKUMAFESTIVAL II」。
第2弾ということですが、そもそも展示タイトルにⅡってつくのは珍しいですよね。
入江「そうですね、テーマは前回と同じくコロナに関する作品を出しています。
黒田くん(※広島芸術センターの運営メンバーの一人でもある黒田大スケ)から展示の声がかかって、来年の1月にやる?って話もあったけど、夏にやろうという話になりました。
またコロナでアメリカに行く話が延期になっていたところだったので、時間もあったし。」
➖私はこの英題が好きで。「HAPPY AKUMA FESTIVAL」って
DEMONじゃないんだっていうか、AKUMAだとすごく悪い物という感じがなくて
ユーモラスだなって。
前回は作品が100体近くあるシリーズがありました。
入江「それは《百魔像ダスト》というシリーズで、今もちょっとずつ作っていて、260くらいある。
今回の展示では出さないかもしれません。」
➖ 《百魔像ダスト》のモチーフは薬の袋から生まれたんですよね。
入江「そうです。このシリーズに繋がる作品でもう一つ出品していたのが《青面金剛困籠奈ダスト》です。
青面金剛は疫病を流行らせる鬼神だったのが、それを鎮めるために神として祀られた
というストーリーが面白いな、と思って。
私が作ったのはそのコロナバージョン。マスクとか消毒液とかコロナに纏わるものを
青面金剛に持たせた。
百魔像の方も、悪魔だけど神様というコンセプトです」
➖そういった神話を現代解釈したシリーズは一昨年の兵庫県立美術館の展示もそうでしたね。
入江「そうです。最近自分の中でアツいのは“新しい神話を作る“っていうのがありました。」
➖入江さんは元々ホラー映画とか妖怪とか想像上の動物に興味があるそうですが。
入江「そうです。キャラクターが好きですね。
キャラクターをモチーフにそれを神様に祀りあげるようなイメージで作っています。
消しゴムのシリーズは魂を宿す、そして召喚するというものですね。
それと、今回の展示では消しゴムハンコで版画も制作しています。
これは全く新しい試みなので見所かなと思います。」
➖わっ。さらっと新作の概要が。それは平面作品を作るということですか。
入江「仏像的な立体を作ったので、それのお札もあったほうがより神様っぽいと思ったからです。
2D→3Dはよく作るけど3D→2Dはなかなか作品として形にできてなかったので。」
➖2Dにはするけど、消しゴムを“彫る”という作業は3Dのようでもあるし、
次元が行き来しているようですね。楽しみです!
➖その展示準備もある中なのですが、入江さんは現在、市内の某所で
新しくアトリエも制作中ですよね。
4月にお邪魔させてもらって壁紙を剥がしてる様子を見学させてもらいました。
最近、SNSで床を剥がしている写真を見ましたが。
入江「そうです。業者の人に剥がしてもらって塗装してもらってます。
悩みながら改装してるので結局時間がかかってます。」
➖アトリエは今月完成予定だそうですが、順調ですか?
入江「…一応(笑)。展示に間に合うくらいだと思います。
あと照明とカーテンレールつけたらなんとか形にはなると思うんです。
あとはオープンしてからやっていこうかと。」
➖NYが延期になったとはいえ、そうやって新たな制作場所を立ち上げたりしていますし、
昨年は展示も多かったような印象です。
入江「そうですね。秋に助成金が下りたプロジェクトも多かったので意外と多かったです。」
➖ジャンルも幅広い。現代美術はもちろんですが、彫刻とか、ファッション業界まで。
コミッションワークも消しカスシリーズは需要が多いですね。
現在の入江さんの作品は、二次元の絵のバックボーンに新しい解釈を加えたオリジナルの命を創造して、それを立体化していく作品が多いですが、初期は絵からそのまま抜け出したように立体造形する作品でした。
コミッションワークだと後者の要望が多いですよね。
入江「まあそれがわかりやすいし、求められますね」
➖それって割り切ってやるんですか。
入江「仕事は仕事だし。その辺は(笑)。」
➖作品素材も消しカスだけではなくて耐久性のあるものになっていますね。
横川創苑の展示では、お菓子のパッケージイラストがアクセサリーになったものもありました。
入江「そうです。それは樹脂粘土を混ぜています。」
➖動画や写真、テレビなどでも入江さんの消しカスシリーズの制作技法は惜しみなく公開しています。
プロセスの公開については抵抗がないですか?
入江「全然ないです。あ、パクられるんじゃないか、ってことですか?
消しカスアーティストで検索しても私しか出てこないし。」
➖逆に入江さんの作品は技術的な部分も大きいので、そういう「真似できないだろう」という自信のようなもの含んでいるかなとも。
入江「パクったとしてもそんなお金になる仕事じゃないから(笑)。」
➖広島芸術センターの展示の後は東京画廊のグループ展が7月に続きますが。
入江「広島の展示の後すぐその一部を東京に持っていく感じです。」
➖重なってますねえ。そして肝心のNYもまだ行くチャンスを伺っていますよね。
入江「いつでも行けるんだけど、もう一度助成金をとって、最低3ヶ月はいこうかなと思っているので、その準備もしています。」
➖ということは今回の広島の展示を見ておくべきタイミングですね。
最後に、このサイトは「ひろしまアートシーン」なので、広島を活動拠点にしている良いところや、
今後期待していることなどを教えてもらえますか?
入江「難しい質問ですね(笑)。
適度にシティと田舎の調和が保たれているので、コンパクトなネットワークで美術好きな方や
美術関係者の方とも繋がりやすいかなという感じがします。
でも関西や関東、九州と比べてしまうと、まだまだ盛り上がりに欠ける気がしています。
新しく立ち上がったサイトで広島の作家やギャラリーの活動が、広島の人達に注目されて、
平和活動以外の文化も見直されることを期待しています!」
➖当サイトも充実できるようにがんばります。どうもありがとうございました!
1983 岡山生まれ
2008 ベルリン・ヴァイセンゼー美術大学(ドイツ)交換留学
2009 広島市立大学大学院博士前期課程修了
主な個展に 「大悪祭」2021、広島芸術センター、広島。
「横川小商店」2020、横川創苑、広島。「とらたいじ」2020、広島芸術センター、広島
「純真遺跡〜愛のラビリンス〜」2019、兵庫県立美術館、兵庫など。
主なグループ展・プロジェクト
「本のキリヌキ」2020、瑞雲庵、京都。「美術館の七燈」2019、広島市現代美術館、広島。
「瀬戸内国際芸術祭2019」2019、小豆島、香川。
など多数。