【レビュー】渡辺真悠「空想津々浦々花紀行 秋冬編」
2025.5.18(日)

GWは広島のギャラリーを巡ろう−−という言葉に誘われ、早速一軒たずねてみた。渡辺真悠「空想津々浦々花紀行 秋冬編」@タメンタイギャラリー鶴見町ラボである。同ギャラリーの入るビルは近年アートなビルになっているらしく、制作アトリエやトーク、ワークショップなどを行うスペース、オルタナティブな本屋が数店あったりと、まさに実験的なアパートと化している。以前には「令和のときわ荘」とメディア報道もなされたそうだ。


そんなアートビルの4階最奥が会場。住居用の間取りだけにアットホームなサイズ感。オーナーや作家もいてお話しながら鑑賞開始。キャプションが見当たらなかったのでお声がけすると、手書きのかわいいキャプションが手渡された。なんだか和むので、みなさんもどうぞ。


作家の紹介文通り「写真に収めた草木を縮小し、想像上の島に切り貼りしたコラージュ作品」が壁に卓上にと並んでいる。こちらは《ハナカタバミ谷温泉》という大きめの作品。海に囲まれた陸地、砂地、緑地ありとまさに島の俯瞰図である。近づいて見ると様々な種類の草花が、どこか浮遊感の感じられる状態で散りばめられている。コラージュであるから集めた素材の縮尺や眺める角度、光の当たり方などがバラバラであり、その効果として浮遊感が生まれているように感じられた。
基本はパソコン上で作られたデジタルなコラージュのようだが、作家に促されもう少しつぶさに見ると、アナログなコラージュも施されている。草原のエリアに花が足されたり、あるいは樹木の上に芝生が被せられたりと、平面上の草木の疎密が自在にコントロールされている。このハサミと糊による原始的な処理が画面に細かな凹凸を生み、前述の浮遊感を増強しているように思われた。なるほど、よく観察して良かったです。


こちらの2点、動物か人間の横顔かなと思ったが、砂浜があるところを見るとやはり島。左が《キンモクセイ山温泉》で右が《コスモスヶ丘温泉》。先ほどの作品もそうだが主役となる花が存在しているようだ。肝心の温泉はといえば光沢質の紙で表現されている。ベースとなる紙面に穴が掘られ(切り取られ)、そこにテカった水面が登場している。この温泉に入ると体がギラギラになる効能がありそうだとか、余計な妄想を膨らませつつ豊かな自然に目を巡らせる。
なんだかずっと眺めていると、草花や地面がカタカタと動き出しそうな気がしてきた。貼り付けられた素材はおのおの独立しており、明快な輪郭をもっている。ことにアナログなコラージュ部分はその浮き出し感が強い。デジタルなコラージュはのっぺりとしているが、そのレイヤーからぽこっと出てきたような手作りのコラージュ部分。無秩序にしかも多数であり、どんどんと湧き出してくるような感覚の揺らぎを覚えた。作家は美大で映像を学んだ方であったが、そのような触覚的な映像法があったりするのだろうか。


立体作品もやはり島的なもの。タイトルは《しま》。まんますぎて笑った。平面作品と比べるとわりあいおとなしい外観。サイズや形から枕のように見えたが、特別そのような意識はないようであった。空想の作品に影響されて、こちらの脳みそも空想的になっている。
隣の和室では映像のインスタレーション。おぼろげな記憶であるが、葉緑体の観察にインスパイアされた作品で、光の点となった細胞がうごめき、まわる。細胞と浴槽、どちらも液体に満ちた閉ざされた空間であるという類推から発展したものだそう。こちらは映像なので、生命力を感じさせるものが実際に動いている。いや、動いているからこその生命感か。アニメーションの由来はラテン語のアニマ(Anima)、意味は霊魂や生命であったはず。動きと生命は切っても切れない。
やはり先ほどの草木もいずれ動き出すのではないだろうか。静止した絵をもって、躍動感を夢見させる作品。そんなふうに、見る側のイマジネーションも刺激される愉快な展示であった。
(広島在住のアート愛好家・太田川蟹)
*写真は筆者撮影
渡辺真悠「空想津々浦々花紀行 秋冬編」
会期:2025.4.29〜2025.5.11
会場:タメンタイギャラリー鶴見町ラボ
鑑賞日:2025.4.29