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【レビュー】丹田和宏&はる「二人展」

外観(筆者撮影)

十日市にひっそりと所在する書肆翠(しょしすい)に伺った。この辺りは石州街道という広島と島根をつなぐ大動脈の界隈であったらしい。江戸時代にはさぞ賑やかだったのだろう。現在は雑居ビルの立ち並ぶ下町的な雰囲気を残しつつ、シャレたお店やリノベ物件もちらほらとあり、カルチャーゾーンとして注目を浴びているようだ。ほどよくのどかでありながら活気も感じられ、街歩きするには楽しい場所である。

目的は丹田和宏&はる「二人展」。DMのビジュアルになっている丹田氏の静物画がいいなあと思い出掛けた。伺った日は喫茶イベントも同時開催しており、隠れ家的なスペースでありながら多くの人が詰めかけていた。オーナー自ら焙煎したコーヒーをいただく。

一番大きな絵画《Melancolia 2005 室内》がDMに掲載されたものだ。全体的にパステルがかっているように見え、眺めているとどこか穏やかな気持ちになる。作家がどこから描き始め、どんなふうに筆を動かしたのか、追体験したくなるような不思議な魅力を放っていた。日曜午後の柔らかい日差し、のような空気感に満たされていた。影も優しい。

テーブルクロスのひかれた机に本、果物、花瓶、楽器と、洋画を学んだ方らしく定番のモチーフが並んでいる。これらを配置する時点で創作が始まっているのだろう。「モチーフが人間のように見える」と、生前の丹田氏が話されていたそうだ。また、著名な版画に登場するシンボリックなオブジェ、背景に描かれた爽やかなポスターも美術の教科書に登場する作品であったり、西洋絵画を熱心に研究されていたことが如実に現れている。

今ひとつ特徴的なのは、光の表情を追っているとでも言おうか、瓶のラベルは取り払われ、本の印字すらも色面のみになっている。なんでも写し込んでしまう写真と異なり、画面に不要な要素は削られている。あるいは焦点をズラして詳細はぼかし、光や色彩の様子を重視したのだろうか、とも考えられる。いずれにせよ、漠とした印象を強めているものの、これまた不思議と不完全には感じられなかった。ただただボゥーっと眺めていられる。

と、左下のキャンバスが目に入った。最初からあったっけ?というくらい突然に気がついた。裏返っており画面の方に何が描かれているのかはわからない。描かれていないかもしれない。穏やかな空間に一抹のミステリーが挿入される。ちょっと不穏な感じも憎い演出と解釈すべきか。もっとも、キャンバス裏返しの技も著名な写実絵画にて採用された視点変化の方法であり、他の表現同様うまく馴染んでいたように思う。

からりと乾いた淡い画面の構成と、様々に駆使された西洋絵画のテクニックを見ていると、憧憬の思いが根底にあるように感じられた。そんな丹田氏は文化一般に造詣の深い方だったようで、映画や音楽にも詳しく、クロッキー教室を主催し若手の展示にも積極的に訪れるなど、知的好奇心に溢れていたそうだ。モチーフとして描かれた楽器類を弾くことはなかったが、ポテチの筒を再利用したオリジナル弦楽器を披露しては周囲を楽しませていたそう。筆者も触らせてもらったが、作品に惹かれ集まった方々を楽しませるまでには至らなかった。

西洋においてアートは社交場であるらしいが、なるほど、丹田氏の作品空間はそのような場を醸成しているようだった。

(広島在住のアート愛好家・太田川蟹)

丹田和宏&はる「二人展」
会期:2024.10.8〜2024.10.19
会場:書肆翠
鑑賞日:2024.10.13

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