- 作家略歴 |
画業のため渡仏、帰国後、筑波大学芸術学研究科(博士)にて芸術教育学を専攻、その後教員養成にたずさわる
パンドーラ/逃げ遅れた希望
パンドーラは災厄をもたらした女性として良いイメージはない。しかし、彼女は、神々によって災厄が詰め込まれた甕を天界から地上界に運んだだけである。悪いのは災厄の甕を持たせた神か、天界の火を盗み人間に与え神々の怒りを買ったプロメーテウスか、開けるなと言われた甕を開けた弟のエピメーテウスだろうか。
1945 年8月6日朝の災厄をもたらしたのは原子力を生み出した科学者か、兵器にしてはいけないものを兵器にして使用したものか、その因を作ったものか。
甕には災厄が飛び出した後たった一つ取り残されたものがある。「希望」である。
今この世界において「希望」とはなんだろうか。
言語ゲーム/世界は多様性に満ちている
哲学者ヴィトゲンシュタインは、世界は多様な言語ゲームで成り立ち、人はいずれかのゲーム世界に生まれ、成長とともにそのルールを理解し、内面化してそのゲーマーになっていくと考えた。ゲームであるから矛盾や不都合が生じたら話し合って良いものに変えれば良いし、別のゲームに参加しても構わない。しかし、一人のゲーマーが、メンバーの意向を無視し独自ルールを押し付け、また別のゲーム世界を否定することは、ゲーム参加者の喜びや幸福感を奪い、ゲームを崩壊させる。安定したゲームを続けるには、ゲーマーの多様性の尊重が必要である。この世界において今それが一番必要としているのではないか。
パンドーラの地に取り残された「希望」は、「多様性」かもしれない。
今回の広島の個展において、「多様性」など改めて人の存在の有り方について思いを強せていただければ幸いです。
なお、展示開催において御協力いただいたギャラリーG様他、関係者の皆様にお礼申し上げます。
2023年4月
MASAKI