In the Flow (ひろしまアニメーションシーズン関連展示) gallery G

gallery G

In the Flow (ひろしまアニメーションシーズン関連展示)

2022.8.16 tue - 2022.8.28 sun

11:00〜19:00(Last day〜16:00)

※8月22(月)休廊

参加作家|カール・シムズ Karl Sims、ホー・ツーニェン Ho Tzu Nyen、南隆雄 Takao Minami、ヨム・ジヘ Ji Hye Yeom(50音順)
キュレーション|馬定延
主催|ひろしまアニメーションシーズン(ひろしま国際平和文化祭)
協力|gallery G

画像クレジット|Ji Hye Yeom, still from A Night with a Pink Dolphin, 2015, Image courtesy of the artist

「In the Flow」は、生存の条件としての水を切り口に、現代美術とアニメーションの間を流れるイメージの風景を想像する展覧会である。タイトルは、デジタル・テクノロジーの影響で変化した現代美術と時間との関係性、そして作品の生産・流通・鑑賞・記録の流動性を論じたボリス・グロイスの批評書『流れの中で』(2016/2021)から借りたものである。

 

地球上の生命は、約38億年前にはじめて海の中で発生して、約4億年前に陸に上がり、生存競争のなかで環境に最も適したものが生き残って子孫を残す「適者生存」の原理で進化したとされる。《進化した仮想生命体(Evolved Virtual Creatures)》(1994)は、カール・シムズ(アメリカ・1962年生まれ)の開発したシステムから出現した生態系を描いたコンピュータ・アニメーションである。形と動きを決定する遺伝子情報の組み合わせから生まれる生命体は、海の中で泳ぎ方を探り、陸では重力に影響されながら歩いたり、ジャンプしたり、食べ物を追いかけ他と競争する。シムズは、個々の生命体をデザインする代わりに、それが生まれて進化する環境と条件を創った。その世界で繰り広げられるのは、予定調和的な疑似自然ではなく、作者の予想をはるかに超える生存戦略の多様性である。

 

ピンクイルカとは、約300万年前の地殻変動によって海に戻れなくなり、淡水に棲息することになったアマゾンカワイルカの俗称である。ヨム・ジヘ(韓国・1982年生まれ)は、ブラジルでピンクイルカと遭遇した個人的な体験から《ピンクイルカとの一晩(A Night with a Pink Dolphin)》(2015)を制作した。原住民の間には処女がアマゾン川を泳ぐと男性に変身したピンクイルカの子供を受胎するという民間伝承があり、ピンクイルカは現実と神話の間の存在として信じられてきた。しかし、植民地主義の傷跡と資本主義の経済論理によって自然と人間の関係は大きく変化してしまい、ピンクイルカは絶滅の危機に直面している。現地で撮影した映像と3DCGアニメーションにインターネットで購入またはダウンロードして収集したファウンド・フッテージを織り交ぜたヨムの作品は、表象としてのピンクイルカが生き延びる環境としても読まれる。

 

白と青を主色にする2枚のスクリーン上に、色彩と遠近法から解放されたイメージが何層も重なり合い、浮き沈みながら流れてゆく。前景と背景の区別がないその景色の中では、空と海と陸が溶け合い、自然と人間社会の間の境目も曖昧になっている。重さや厚みを感じさせない「極薄」のイメージは、それにある種の具体性を付与するサウンドと相まって、抽象と具象の間で絶えず振動する。《Difference Between》(2014)は、パリを拠点に活動する南隆雄(日本・1976年生まれ)がマレイ半島で収集したイメージとサウンドを素材に制作された。作品の中に映し出されている新しい風景には、映像の素材にいかに生命を与えるか=アニメート(animate)するかが問われる、今世紀の映像文化が反映されている。

 

ホー・ツーニェン(シンガポール・1976年生まれ)は、《東南アジアの批評辞典(The Critical Dictionary of Southeast Asia)》(2017〜)という長期プロジェクトに取り組んでいる。アルゴリズム編集システムを介して、テキスト、音楽、写真、動画からなる項目の毎度新しい組み合わせを表示するウェブサイトを通じて、ホーは多様な民族、言語、宗教、歴史からなる地域の異種混合性と、それを指し示す単一の枠組みに対して疑問を呈している。この辞典の最新項目である《H for Humidity》(2022)は、本来VR装置を使い、固体・液体・気体状の水の経路に沿って異なる時空間を漂流する体験型の作品だが、今回の展覧会では作家自身が選んだ複数の場面を風景画の形で展示する。パンデミックの時代、体内外を流れる大いなる水の循環の一部になる感覚を想像することはどのような意味を持っているのだろうか。

 

(馬定延)

 

 

馬定延(ま・じょんよん)

1980年ソウル生まれ。東京藝術大学大学院映像研究科修了(博士・映像メディア学)。著書 『日本メディアアート史』(アルテスパブリッシング、2014)、共編著書『SEIKO MIKAMI: 三上晴子-記録と記憶』(NTT出版、2019)、論文「光と音を放つ展示空間—現代美術と映像メディア」(2019)、「パノラマ的想像力の作動方式」(2020)、共訳書『Paik-Abe Correspondence』( Nam June Paik Art Center, 2018)、『田中功起:リフレクティヴ・ノート(選集)』(アート・ソンジェ・センター+美術出版社、2020-21)など。現在、関西大学文学部映像文化専修准教授、国立国際美術館客員研究員。

 

ひろしまアニメーションシーズン2022
https://animation.hiroshimafest.org

ひろしま国際平和文化祭
https://hiroshimafest.org

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