砂川啓介 「拡散された標語|煽動された大衆」 その他の会場(広島県内)|non-registered venues

その他の会場(広島県内)|non-registered venues

砂川啓介 「拡散された標語|煽動された大衆」

2024.10.26 sat - 2024.11.4 mon

10:00-17:00(土・日・祝は19:00まで、最終日は16:00まで)

会場|旧日本銀行広島支店(広島市中区袋町5-21) 1F一般事務室、ロビー 
観覧無料

昨年から19年ほど暮らしていた関東を離れて、地元である広島に戻って活動を開始した。そんな新生活に向けて荷物の整理を行なっていた時に、押入れに閉まっておいた段ボールの中から古い絵葉書が何枚か出てきた。
その絵葉書とは、海軍省が発行した戦闘機が写された絵葉書であるが、普通に撮影されたものではなく対象(イラスト?)と背景が合成され、今で言うところのスポンサーのような名称が機体に意図的にマーキングされたものであることが読み取れる。それは、1931年の満州事変以降、全国で展開された軍用機献納運動によって海軍に納入された航空機を「報國號」と呼んでおり、その献納機の命名式における記念品として発行された絵葉書であることが分かった。運動は1940年代頃まで続き、一般市民や非軍需企業などからの献金により調達された航空機は、陸軍では「愛国號」、海軍では「報国號」という愛称が付けられていた。愛国號と報国號は太平洋戦争で敗戦に至るまでに併せて13000戦機を超える数が製造されたと言われている。それだけの熱心な献納者がいたことにまずは驚くのだが、他の絵葉書を調べていくと献納者の名前の箇所だけ修正された同じ構図の機体を複数使い廻しているものが多く、本当に製造していたのかと不審に思うのであった。戦時下では国家総力戦と言うが、如何にして民衆に対して国民一丸となり愛国心や国家への帰属意識を向けることが可能であったのだろうか。その一部には、軍事啓蒙書の存在が大きく、軍備拡張の観点から、関東大震災を引き合いに出し防空演習を通じて空襲の恐怖を国民に語り、空襲を阻止できるのは海軍とその飛行機以外にないとメディアを巧妙に駆使して働きかけていたのである。これにより世の飛行熱、大空へのロマン、そして知識が高まったことから献納運動が活発化されていったとされている。併せて、同時期に国民精神総動員運動が展開され、国策標語なるスローガンを国が打ち出し、国民に向けて戦意高揚・生活統制・精神動員のための方針が定められ、国民一人ひとりが戦争へと誘導されていったのである。
この時代から90年近く経った現在では情報は簡単に手に入るようになり、他者との共有、議論の余地が可能となった。しかし、紛争は絶えず続いている。そして、その情報も事実とは異なった特定の目的のために都合の良いように操作されたものを目にすることが増え、フェイクニュースが大統領選挙で影響を与える時代でもある。果たして、その不確かな情報から意志を持って取捨選択し、読み解く力が試される時代において自由を導きだすということはどういうことなのだろうか。
本展では、絵葉書を出発点に戦時下の国家と民衆の関係についてのリサーチ行い、原寸大で再現した戦闘機の一部と、その関連資料をもとに制作したインスタレーションを発表する。


 

 

「消費されるものが加速する今、芸術がいかに社会と関係を持ち、人と人を繋ぐ媒体として機能できるか。」 どの時代にも変革期は存在する。今の時代もまた変革期に値し、パレスチナ・イスラエル戦争やロシアのウクライナ侵攻、疫病、自然災害、AI の急速な進化など、暮らしはもとより様々な領域に渡って将来がどのように変化していくかは、全く予測不可能な時代でもある。不透明な出来事や曖昧な情報が横行している不確実な時代であるがゆえに、複雑化された選択肢に対して個々の判断能力が必要とされる社会でもある。その複雑化された選択肢において事物の背景には必ず物語や歴史が存在し、多様な角度からの解釈と翻訳によって深みを与えられている。しかし、社会的圧力による読み違いや見方、捉え方の違いから伝言ゲームのように次第に内容が変化し、真実を修正して個人の都合のいいようにチューニングした物語としての事物が多々見受けられる。はたして、その中から正しい選択をすることなど可能なのだろうか。私は、この点において世の中に出回る膨大な情報から自分なりの答えを導きだす方法は、自身の性格特性や価値観を知ることから始まると考えている。自己形成に至った外部からの影響や家庭/教育環境など極めてパーソナルなアイデンティティの読み取り作業を通じて、自身の外的要因と内的要因の関係性から独自の文化観を発見することが出来るのではなかろうか。 その個人の文化観とはどのようなものとも比較することの出来ない唯一性を持った観念であり、その観念こそニューノーマルな社会で機能するのではないかと信じている。

 

 


 

砂川啓介
Keisuke Sunakawa

 

1985  広島県広島市生まれ
2011  多摩美術大学大学院美術研究科修士課程修了
2018  MAD アーティス・トプラクティス修了 主な個展
2024  「メイド・イン・ヒロシマ」アートギャラリーミヤウチ、広島
2015  「仮説としての平和」gallery W、東京
2009  「砂川啓介展」ギャラリー壹零參、神奈川

主なグループ展
2018  「明け方の計略」駒込倉庫、東京
2017  「プラセボソワカ」横浜市民ギャラリーあざみ野、神奈川
2015  「夜間実験」アキバタマビ 21、東京
2013  「□と□」アキバタマビ 21、東京
2010  「第 45 回昭和会展」日動画廊、東京
2009  「第 28 回損保ジャパン美術財団選抜奨励展」SOMPO 美術館、東京 その他
2009  多摩美術大学学業成績優秀者奨学金
2010  多摩美術大学学業成績優秀者奨学金
2010  「第 45 回昭和会展」東京海上日動賞受賞

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