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【レポート】ひろしまアートシーンどうしようか座談会 vol.1

開催日時|2022年12月26日(月)19:00~21:00
会場|gallery G(広島市中区上八丁堀4-1)
進行(ひろしまアートシーン運営事務局)|松波 静香(gallery G)
平石 もも(92 project)
山本 功(タメンタイ)


ウェブサイト「Hiroshima Art Scene」をきっかけとして広島のアートシーンをより活発にしていくためのアイデアの発生と蓄積をはかる座談会。vol.1となる今回は、広島地域の美術関係者だけでなく、さまざまな分野のかたが参加し、総勢17名で2時間にわたって語り合いました。

松波)本日はご参加ありがとうございます。ひろしまアートシーンどうしようか座談会の1回目となる今回は、開設から1年半が過ぎたウェブサイト「Hiroshima Art Scene」についての現状や課題と、よりよくするのためのアイデアをみなさんにいただきながら、地方における情報発信メディアの可能性も含めて一緒に考えていければと思います。よろしくお願いします。

Hiroshima Art Sceneとは

松波)まずはウェブサイト「Hiroshima Art Scene(以下H.A.S.)」の開設の経緯をお話ししておきます。H.A.S.は2021年の春に開設されました。制作費は広島市のコロナ禍での文化事業に対する支援事業によって全額賄われました。この事業の話を聞いたとき、一過性のイベントに使うのではなく継続的に利用できるものを作りたいと考えました。すでに広島で日々行われていることをまとめて外観することができて、埋もれることなくアーカイブできる場所をネット上に作れば、今後に繋がると思ったのです。

当時は人と会うことも憚られたので、最小人数の関わりの中で制作しました。平石さんと山本さんに相談にのってもらいながら、わたしがディレクションをして、デザイナーとウェブ制作の方に形にしていただきました。理想を言えばきりがないのですが、予算と相談しながら、継続して運営していくことを第一に考えた結果、かなりシンプルな作りになっています。

平石)広島のギャラリー情報を網羅している紙媒体の情報誌はこれまでにもありますが、急な変更や突然立ち上がった展覧会などはどうしても漏れてしまうので、こういうウェブサイトがあったらいいなと思っていました。印刷物にはない瞬発力でリアルタイムな情報を更新して発信できる場にしたいというのはありましたね。

松波)そうですね。開設後は登録ギャラリー各々が自分のスペースの展覧会情報を投稿していくというかたちで、おもにボランティア的な作業によってなりたっています。立ち上げも運営もこんな感じで、ウェブの運営などしたことがない素人集団がやっているので、いろんなところに課題があるのではと思っています。

平石)Instagramのアカウントも作って、広島のアートシーンに関する情報はなるべくたくさんリポストで情報を拡散するようにしていますよね。運営側が忙しい時などは投稿がとまっちゃうのですが。

山本)twitterもやっています。

松波)Instagramがメインだと勘違いしている人もいるみたいですけど、ウェブサイトがメインです(笑)

松波)さて、これがトップページですが、一番目に付く場所に、現在会期中の展覧会情報が表示されるように設定されています。これは、会期終了までの日数が少ない順番で表示されるようになっていて、終了した展示は開催ギャラリーのページと全体の展覧会アーカイブとして蓄積されていきます。


平石)このページを見ることによって、行きたいと思っていたのに気がついたら会期が終わってしまっていたということが減りました。

松波)“EXHIBITIONS”には今日(2022年12月26日)現在までで670の展覧会が投稿されています。過去に遡って登録することもできるので、必ずしもサイト開設以降の数字ではありませんが、少なくとも500~600の展覧会が2021年の春以降に広島で行われていることになります。基本的には各ギャラリーさんに自主的にワードプレスに入力して投稿してもらうという形式で運営しています。
“GALLERIES”に登録されているギャラリー数は現在67カ所です。

平石)開設当初は30カ所ぐらいだったんでしたっけ。

松波)そうですね。支援事業の条件の都合上、最初は30カ所の掲載を目標として協力を呼びかけました。2014~2016年に紙媒体で「ひろしまギャラリーマップ」を制作したという下地があったということも繋がっているかなと思います。

山本)開設以降にはどんな感じで増えていったんですか?

松波)新しくできたギャラリーもあるし、最初にお声がけしきれていなかったところに徐々にお声がけしていったり、逆に掲載してくださいという連絡をいただいてたりして増えてきました。
ちなみに、移転や休止、廃業されているところも、消してしまうのではなく表示した上で残すようにしています。

その下の“NEWS”の欄は、登録されているギャラリー以外の場所で行われる取組や、いわゆるニュースとしてお知らせしたいことを載せるようにしています。たとえばパフォーマンスや上映会といった展覧会ではない多ジャンルなお知らせを扱えるようにしています。

そして、“ARTICLE”は展覧会でもニュースでもない記事を扱う場所として作りました。ここが一番のんびりしていて、開設以降14の記事のアップに留まっています。わたしとしてはこの部分が今後の課題になっていくのかなと思っています。

参加者)ウェブサイトへのアクセス数はどれくらいなんですか?

山本)この1ヶ月を見るとアクセス数は3000で、新規ユーザーとしては2800ぐらいです。

松波)けっこういろんな方が利用してくださっているということは、体感としても感じています。

情報発信と収集の方法について

松波)さて、ここまでH.A.S.についてご紹介しましたが、ここからはみなさんが使っている情報メディアについて聞いてみたいと思います。
展覧会などのアート関連の情報を収集するのには、みなさんどんな媒体を利用していますか?今日は普段H.A.S.を活用してくださっているギャラリー運営者の方もおられますので、ギャラリーとして情報を発信するときにはどのようなメディアを使っているかについても、よかったら聞かせてください。

以下は参加者の方の発言を箇条書きにまとめたものです。

【情報の収集】

・中国新聞の情報欄
・行政が発行するフリーペーパー
・アーツコンシェルジュ(東広島市)のSNS
・Instagram(視覚の印象からまず入ってくるので展覧会のお知らせには効果的だと思う)
・Facebookや新聞は基本的に見ずInstagramとtwitterを見ている
・SNSだけではなくウェブサイトがあると安心する
・twitterのフォロワーやフォロイーをたどって興味がある分野のつながりを広げている
・ギャラリー訪れた際に掲示物やDMから
・街で偶然的に出会うポスターやDMから
・東京の情報については美術手帖とTokyo Art Beatを見る
・広島に関してはHiroshima Art Sceneしか見ていない(都市の規模感に合っていて、俯瞰して見られる)
・身近な情報は人づてに聞くのが一番早いという場合もある

【情報の発信】

・Facebook
・Instagram
・Twitter(アカウントはあるがうまく運営できていない/お知らせよりも日常的で身近な話題を頻繁に発信している)
・メーリングリスト(名刺交換した人などに発信している。半分ぐらいの人が開いてくれている)
・Tiktokもアカウントを作ってはみたが活用していない(ギャラリーに足を運んでもらうための効果がよくわからなかった)
・ホームページ
・SNSごとの特性によって使い分けをしている
・SNSでは瞬発的な情報共有やなんでもない日常的な呟きなどをしていて、展覧会情報はH.A.S.のみに投稿している
・印刷物(DM、チラシ、ポスター)
・イベントバンクへ入力・登録している
・美術手帖、Tokyo Art Beat
・個人アカウントとギャラリー公式アカウントの使い分けが難しい

松波)DMやポスター、人からの口コミというのもけっこうありますね。東京では広報はほとんどがデジタルに移行していて、最近はDMを刷るということ自体が少なくなってきているとも聞いたのですが、広島では紙媒体も今も重要ですね。

平石)おすすめの展覧会のDMを持ち歩いて配ってくださる方もおられますよね。

参加者)確かに東京ではDMを作らずにオンライン上のみでの告知にシフトしていると思います。

参加者)ネットでは見る側がアンテナを張っていないと情報をキャッチできないですが、DMやポスターには偶然出会う機会があるというのは大きな違いだと思います。
それから印刷物として制作するためには内容やデザインのコンセプトなどしっかりとしていないと作れない部分が多いので、そこから企画自体の本気度や熱意も感じられるというところがいいところですよね。

参加者)わたしも、何かを調べよう!というスイッチが入ったらネットでめちゃくちゃ調べるけど、それ以外は意図的にあまり見ないようにしています。今回の座談会についてもそうですが、ネットで流れてくる情報よりも、友人からの誘いで動くことが多いです。

参加者)ツイッターで興味が近い人をたどってフォローしていくと、気になる情報が手に入るようになります。でも実は、人づてに噂を聞くのが一番早かったりもしますね。

参加者)わたしは情報発信する側なので、発信についてお話しすると、県外へ向けては美術手帖への情報送付をしています。Tokyo Art Beatは一度フォームから情報を送ると、その後の展覧会についてはどこかから情報を汲み上げているのか、いつの間にか情報提供をしなくても掲載してくれているようになりました。最近は地方の情報収集もされているみたいですね。
広島へ向けてはH.A.S.やイベントガイドなど、自分で入力するタイプの発信サイトをけっこう利用しています。
SNSで発信するときは、個人アカウントとギャラリーの公式アカウントの使い分けが難しいです。個人アカウントで個人的なテキストで発信したほうがリアリティがあるのだろうなと思いつつ、投稿を見るひとにどういう見え方になるだろうかと考え始めると、投稿する前に時間が過ぎていって、結局投稿しないという・・。

松波)わたしもギャラリーからの発信方法については、時代の流れに身を任せてFacebook、Instagram、twitterとアカウントを作って試行錯誤しながら発信しています。ただ、自分が不得意で滞ってしまっているものもありますね・・・。世代や流行によって利用されるSNSは変わるでしょうし、ギャラリーに興味を持ってくださるすべての層の方に届く媒体というのはひとつには絞れないし、何が正解かというのがないですよね。

平石)それぞれの媒体に合わせて写真とかテキストを変える必要があるし、それを準備するのもけっこう大変な作業です。

Hiroshima Art Sceneの課題や改善点について

松波)ここからはH.A.S.の課題や改善点についてアイデアを出し合ってみたいと思います。
このサイトをギャラリーとして使用しているかたと、一般の方として見ているかたの視点の違いもあると思います。実現できるかできないに関わらず、どんなことでも構いません。いかがでしょうか。

以下は参加者の発言を箇条書きにまとめたものです。

<トップページ>
・口コミやリアルタイムな声が集められる投稿コーナーがあったらいい
・地図の表示を工夫する(例えば展覧会開催中のギャラリーのみが表示されるようにするなど)

<EXHIBITIONS>
・展覧会のレポート(告知情報だけでなく、実際にどんな展示だったのかが知りたい)
・近くのギャラリーへのリンクボタンがあったら便利
・いいねボタン、コメント欄などリアクションができるようにしたらいい
・美術館の情報も掲載されていたら嬉しい
・少し先の予定を立てる人のために、これからの展覧会情報(EXHIBITION>UPCOMING)をもっと掲載してくれていたら嬉しい

<GALLERIES>
・ギャラリー一覧では各ギャラリーの特徴がわからない
・一覧を見てどんな雰囲気のギャラリーかが分かったら嬉しい

<NEWS>
・このコーナーをもっと活用したい
・展覧会の中で開催するものでも参加者を募集するイベントなどはEXHIBITIONSではなくNEWSであげるほうが効果的ではないか
・1日だけのイベントもEXHIBITIONSではなくNEWSであげるほうが効果的ではないか
・上記のような例はEXHIBITIONSとNEWSの併用をしたほうがいい

<ARTICLE>
・記事数を増やして充実させたい
・何を誰に書いてもらうか
・コーナーのハードルは上げすぎないようにしたい
・モニター募集で執筆希望者を募集してみたらどうか
・学芸員のかたなどに依頼して記事を執筆してもらうのはどうか

<その他>
・googleカレンダーの連動や、スケジュールをpdfでダウンロードできたりネットプリントできたりできないか
・情報収集のためにフォームを活用してみたらどうか

松波)たくさんのご意見ありがとうございます。ウェブサイトについて今みなさんにいただいたアイデアの中には、実は今の仕組みの中でも解決できることは結構あります。
ただ、投稿する各ギャラリーさんの労力に頼っているので、投稿者各々のがんばりしだいというところがあって、わたしも含め、仕組みはあるけどそこまで手が回っていないというのが現実ですね。
マニュアルはお送りしていても、投稿のフォローまで丁寧にできていないということも原因だと思います。

山本)作業量の負担というのは課題ですね。
たとえば情報収集にフォームを利用したり、口コミや反応がウェブサイトに反映されるようにしたりということはできたとしても、それに対して誰かが対応をしなければいけないですし。現状としては事務局側も自分のスペースとプロジェクトを持ちながらの作業なので、難しい面もあります。

松波)実は、ギャラリーと同じようにアーティスト一覧とアーティスト紹介のページも作れるように設計していますが、内容をとりまとめるまでの作業ができずに公開は一旦保留になっているという、苦い経緯もあります。
口コミや反応については、誰でも投稿できるようなカオスなエリアがあっても面白いかもしれませんね。でもシュッとしたデザインとシンプルさは崩したくないし、荒らされるのはちょっと怖いなぁ・・!

山本)いろいろアイデアはありますが、結局のところH.A.S.が目指すものが何かということになってくると思います。

松波)このサイトを通してリアルな場が盛り上がっていくことが目的なので、そのためには何ができるかということだと思っています。

参加者)いま皆さんがお話をされているのは、すでにあるものに加えてどんな機能を拡張したらいいかという話題だと思うのですけど、それは必ずしも必要ないのではとわたしは思います。すでにギャラリーへ足を運ぶきっかけとしてたくさんの人が利用しているわけで、それだけで十分意義のあるウェブサイトだと思いますよ。

参加者) リアルな場で言えば、たとえば観光案内所のように、広島のあらゆる場所のアート情報がそろっていて、例えばどのルートでどこを見るのがいいかというアドバイスをくれる人が常にいる「アートインフォメーション」的な場所が広島にあったらいいと思うのですが、ギャラリーがそういう場所にはなりませんか?

松波)ギャラリーは毎日開いているとは限らないし、案内できるスタッフが常駐しているわけではないので、「ここがアートインフォメーションです!」っていう場所をギャラリーに作るというのは今の状況では現実的ではないですね。でもそういう場所があったらいいですよね。広島市が作ってくれないですかね。(※現在も県や市の文化施設内にインフォメーションコーナーが設けられている例はあります)

参加者)そういうのは民間から声をあげて行政に働きかけるべきだと思います。

山本)なるほど、動いてもらえる可能性もあるんですね。ひとつのギャラリーが声を上げても届きにくいと思いますがH.A.S.がそういった働きかけをできる団体にもなっていければいいですね。

松波)話は尽きないのですが、そろそろ時間が来ましたのでこのあたりで第1回の座談会は終了したいと思います。こういったお話しをする場は今回初めてとなりましたが、課題やアイデアについてお話しできただけでなく、ウェブサイトの存在意義についてもお声をいただくことができ、勇気が出ました。
これからもいろいろな方に関わっていただきながらこのサイトを継続し、みなさんに育てていただきたいと思いますので、引き続きどうぞよろしくお願いします。

第2回の座談会は1月20日(金)19:00から、雁と鶴にて、ゲストにTokyo Art Beat編集の福島夏子さんをお迎えしての開催を予定しております。


次回もぜひご参加いただければと思います。
それではみなさん、本日はありがとうございました。

レポート|松波 静香
写真|浅野 堅一

令和4年度 文化庁 大学における文化芸術推進事業
事業名「街に介入する芸術、その公共性の議論を促すメディエーター養成プラットフォーム」
主催|広島市立大学 HACH (Hiroshima Arts&City Hive/広島芸術都市ハイヴ)
運営|ひろしまアートシーン運営事務局(gallery G内)

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