ARTICLE

ねみの日記 #2 (2022/1/19)

久保田音美(広島市立大学国際学部2年)が
広島でアーティストやギャラリーの人々に
出会っていく体験日記

1月19日の昼過ぎにブラック画材の4階にあるHiroshima Drawing Lab(以下HDL)にやって来た。私はここで1月15日から1月22日にかけて開催された「牡蠣コレクション」を見に来た。HDLのメンバーが主体になって広島のアート関係者に声をかけてこの作品展が実現したが、私も縁あって出展させてもらえることになった。私のように普段制作側ではなく、作家のサポートなどをしている人たちも作品を出展していたりしてどんな展示になるか全く想像がつかなくてとても楽しみにしていた。

4階にあがるとHDLのメンバーである江森郁美さんが迎えてくれた。江森さんとは「牡蠣コレ」初日に一度だけ挨拶をさせてもらったが、会う機会がなかったので緊張しながらもおはなしさせてもらった。私が最初にゆっくり作品を見ていたら、アートギャラリーミヤウチ代表の野村陽平さんご夫妻が来られた。ご夫妻に江森さんが作品の説明などをしていたが、私の作品のときに急に私に話を振られて、説明慣れしてないわたしはものすごく動揺してしまった。結局作品の話より普通にご挨拶させてもらって終わった。笑。普段使っている言葉以外で表現していることを、言語化(再言語化?)してまたわかりやすく鑑賞者に伝えるって本当に難しいなと実感した。

HDLに続く階段 初めて入る時には勇気がいる
入ってすぐの様子 ソファの近くには平石さんのZINEがある
入口の扉 ふたつの牡蠣

ちなみに、私が今回描いた作品は”imaginal empty shell”という岩絵具を使って描いた絵と牡蠣の殻を一緒に展示したものだ。牡蠣殻を絵の側に置いたことにも意味がある。この牡蠣たちは、松波静香さん・香村ひとみさん・中西紗和さんと草津の牡蠣小屋に行った時に貰って来たもの。「牡蠣コレ」に向けてとりあえず牡蠣食べとこうかという話になって食べてお喋りして、散歩しながら作品どうしようかな~と思っていた。

家に帰り、持って帰って来た牡蠣殻を眺めていると色々な考えが浮かんできたけど、ふと食べることに対しての自分の暴力性について思い当たった。

牡蠣を焼く時、大きな音で破裂音がするのだが私は最初はそれが怖かった。だけどだんだん慣れて来て結局1時間ひたすら牡蠣を食べていたなということを思い出して、丸焼きにされた牡蠣からしたらたまったもんじゃないなと牡蠣殻という残骸をみながら強く思った。今思うとあの破裂音は牡蠣の断末魔みたいだった。だからせめてどんな牡蠣だったか思い出してわたしなりの弔いをしようとしたけど、どんな身が入っていたかすらよく思い出せなくて、今まで食べて来たものの中で形や味や香りが思い出せるものってほんとうに限られていると改めて実感した。当たり前のことだけど、どれだけのものを忘れて取りこぼして来たのかを考えると恐ろしいなと思う。

そして、1週間ぐらいかけて常に牡蠣殻を持ち歩いて殻をデッサンし、私が食べたものに思いを馳せてみた。持ち運ぶ箱を開けるたびに海の香りがして私は嬉しかったけど、周りには臭かったもしれない、笑。その後、想像しながら牡蠣の身を描き入れて絵を描いてみた。だから、見ている人も空っぽの牡蠣殻をみて、どんなふうに身が入っていて牡蠣が生きていたか想像して欲しかった。そんなことを考えながら制作した。

久保田音美 『imaginal empty shell』
そういえば、この作品で初めて銀泥を使った。経年変化も楽しみ

次に会ったのはタメンタイを運営している山本功さん。なんだかんだよく会っている気がする山本さん。江森さん含めて3人で作品を見て回ってあーだこーだ言い合った。ひとりで展示会に行くのも好きだし、誰かと一緒に話しながら見て回るともっと考えが進んで違った面白さがあっていいなと思う。特にギャラリーやアート・スペースでは少し慣れると話しやすい雰囲気があって好きだ。3人で一番長く見ていたのはイタイミナコさんの作品。出会い系アプリでマッチした人とのデートを記録してそれをツアーにしている作品(活動?)があって、そのマッチ記録を見ながら出会い系アプリについて話したのが面白かった。あまり人と話すトピックではなかったから新鮮!笑

手嶋勇気 『牡蠣絵』
松波静香・香村ひとみ『牡蠣と聞いた話』

最後にお会いしたのは諫山元貴さんと今井みはるさん。諫山さんは前回訪れたピンクハウスで手嶋勇気さんとアトリエをシェアしている方で、まだ会ったことがなかったのでご挨拶できて嬉しかった。作品も面白くて、”The world is your oyster”という題名だったが、その意味やボールに反射した世界を見てこう表現するのかと面白かった。造形としても好きだったから、私の勉強机に一個置きたい。

今井さんは大学の講義で先生としてお会いしたことがあったけど、講義の日以外にお会いしたのは初めてだったのでドキドキした。今井さんが学芸員として勤めているアートギャラリーミヤウチにも近いうちに遊びに行きたい。

諫山元貴 『The world is your oyster』と映り込むわたし

このあと、Hiroshima Art Sceneのインスタグラムでもおすすめされていたデイヴィッド・ボウイの映画「ジギー・スターダスト」を見に行った。たっぷりボウイのライブ映像を見れて満足した帰りに、本通りの垂れ幕を見やるとゲンビ(広島市現代美術館)のプロジェクトの一環で活動しているヒスロムによる「現場サテライト」の垂れ幕が目に入って来た。1日の終わりまでアートを楽しめて満足だなと思いながら電車に乗って家に帰った。

パンフレットもゲット

▶︎ねみの日記 #1 はこちら

PAGE TOP