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ねみの日記 #6-PINKDETEATIME

久保田音美(広島市立大学国際学部4年)が
広島でアーティストやギャラリーの人々に
出会っていく体験日記

2022の4月から2023年の4月までの1年間「Pink de Tea Time」というプログラムに参加した。広島市立大学の学生がアーティストや学芸員とお茶をしながら考えを深め、最終的にはスタジオピンクハウスとアートギャラリーミヤウチとで二度展示をするという企画だ。主催は廿日市市宮内にあるアートギャラリーミヤウチ(以下ミヤウチ)。ミヤウチの学芸員である今井みはるさんがコーディネーターとして動いてくださった。企画は手嶋勇気さんと諫山元貴さん。二人ともアーティストでミヤウチの横にあるスタジオピンクハウスという共同アトリエで制作をしている。広島市現代美術館の学芸員の角奈緒子さんと松岡剛さんも参加してくださった。

参加した学生は6人。広島市立大学 芸術学部の油絵専攻から執行浩暉くん、松谷悠希くん。現代表現から遠山雅さんと三邨美紗さん(三邨さんは1度目の展示までの参加)、彫刻専攻から三ツ谷麻野さん。そして国際学部からは私(久保田音美)が参加した。このメンバーで1年間、2ヶ月に1回集まり最近考えていることや作っている作品について話し合い、考えを深めながら展示に向けて動いた。

わたしは手嶋さんから「Pink de Tea Time」(以下お茶会)についての話を聞いた。いいなー、おもしろそう!と軽い気持ちで参加を決め、気がつけば1年という長期プログラムに巻き込まれていた。

最初はこんなに長丁場になると思っていなかったが後にも引けず、4月に顔合わせをして企画の概要を聞き(ここで真相を知る)、あっという間に5月になりプログラムが始まる。執行くんとは顔見知りだったが他の人は初対面で、ド緊張したことを覚えている。彫刻専攻の三ツ谷さんがたくさん話をしてくれたことで緊張がほぐれ、最後にはリラックスして話をすることができた。初っ端から彼女が筋トレと散歩の話をしていたことが印象的でずっと覚えている。今では散歩仲間になった。

わたしは何かを作ることが昔から好きだったが、国際学部では展示をするための作品を作る機会は少ない。同時にアートマネージメントにも関心があったので今回の企画ではマネージメント方面で携わるか、わたしも作品を作るかで悩んだ。1、2ヶ月決めかねたが、みんながどんどんアイデアを出して作品を作り上げているのを見て、わたしも作品をつくりたい!という思いが強くなり、作品を作ることにした。

12月と3月の成果展を念頭にまずコンセプト(伝えたいこと)と使用する表現を考えて、細かいところを話し合いながら決めていった。わたしは身体表現(その中でも刺青・タトゥー)やこころと身体の関係に興味があり、それに関連した作品にしようと考えた。お茶会の早い段階でタトゥーを使った表現をするということは決めていたが、誰が・誰に/何に・何を・どんな風にタトゥーを施し見せていくか、長いこと悩んだ。

話を重ねる中で、芸術表現では小さなことや意識を向けることを忘れてしまうような物事にも意味が宿ることを感じ、気を使った。作品を作る途中で多くの選択をしたがそのひとつひとつが体系的のなかで意図しない意味を持ってしまうことは避けたかった。それが面白いときもあるけど。

お茶会では疑問に思ったことや良いと思ったことを自由に話し合って、どうやったら学生がしたいことをきちんと作品として形にすることができるかという問いと全員で向き合ったように思う。学芸員やアーティスト、ミヤウチのスタッフは学生の私たちにとって学ぶことの多い先生だが、他の教育の場よりフラットで少し目線が近くて、個として尊重してもらえる場所だった。

わたしが見せたいことの方向性を色々考えて、12月頃には自分にタトゥーを施すことを本格的に考えていたと思う。だが、わたしのタトゥー技術に対する不安もあって、12月末の展示では人間や自分の身体にタトゥーを入れるのではなくわたしの分身である身の回りのものに入れてみようと思い立った。ポラロイド写真や昔描いた絵、人形や貝殻などを素材としてそれらに私を重ねて彫ることにした。その中でタトゥーと心身の痛みについて考え、それを見る人にも痛みを想起させつつ身体に立ち帰れるような、パフォーマンスをしたいと思った。

12月から1月にかけて何度か展示会場に行き、数時間のパフォーマンスをした。パフォーマンスの間は鑑賞者と直接話すこともあるのでかなり心が疲れた。わたしの作品は、わたし個人の体験を前面に出して、わたしの痛みを共有するものであり、はじめて会う人に自分をそのままぶつけているような感じがする。どんな作品も多かれ少なかれ自分を鑑賞者に開くものだから、きっと作家はこんな疲れを展示のたびに感じているんだろうなと気づく。作家はタフじゃないとやっていけないと強く感じた。

2回目の展示では、前回タトゥーを施したモノたちを展示し、会期前に撮影したタトゥーイングの様子を映像で流した。またタトゥーが癒える様子も写真で展示した。そして自分の左腕に白いインクでタトゥーを彫るパフォーマンスも行った。何度か黒いインクで自分自身に彫ったことはあったが、白いインクは使ったことがなくかなり苦戦した。ハンドポーク(手彫り)という手法でタトゥーを入れたのだがひと突きひと突き手で入れるため時間がかかる。5時間ほどパフォーマンスした日には気分が悪くなってクラクラするほどだった。

モノにタトゥーを施すという前回行ったパフォーマンスと比べ、身体に彫ってみると身体が素材/物質として存在しているということを強く実感したし、またそういったモノが生きようとしていることが痛みを通して伝わってきて面白い体験だった。パフォーマンスを良い延長線上に繋げられたなと思う。

わたしの作品の背景についてもすこし書いておく。わたしはタトゥーを入れる前、自傷行為を繰り返していた。その中で身体を傷つける・そして癒えるというプロセスに強く興味をもつようになった。癒える身体を見つめるうちに、身体(大きく言えば私自身)は常に癒えようと、生きる方向に向けて過ごしているんだなと実感する瞬間があった。当たり前のことだが、自傷行為を繰り返すような精神状態ではそういった生に向かう身体の声も聞こえてこなくなる。だから、自分の中にある生命力に気づいたときにはすごく感動して、また不思議でもあった。身体というわたしをもっと信頼すればこころも癒えて生きる方向に進んでいくのかなと思うようになった。そんな気付きのなかではじめてタトゥーをいれて、しっくり来たのだと思う。タトゥーも皮膚を傷つける行為だが、重要な部分は入れた後のアフターケアにある。アフターケアをきちんとせず、綺麗に癒えないとタトゥーの完成度がぐっと落ちてしまう。傷つけた皮膚を正しくケアして、癒えても尚一生向き合っていくのがタトゥーの醍醐味だ。これはどんな傷に対しても当てはまることだと思う。

わたしにとってタトゥーは傷つき、癒すという人間の生きるプロセスを何度でも確かめることのできる行為であり自分を大切にするための手段でもあった。わたしが感じたこのようなタトゥーの側面や常に生き続けようとする身体にパフォーマンスの中で出会って欲しい、再確認したいと思いながら会期を過ごした。

こうやって書いてきたようにお茶会を通して自分の作品に対する思いは深まっていった。だけどいざ作品というかたちになって他のみんなの作品と並べて展示してみると、どうしても相対的に比べてしまう自分がいた。周りの作品はわたしよりしっかりしていて完成度が高いのにわたしはこれでいいのだろうかと不安感が拭えなかった。作品がどのような状態であれば展示で納得がいくかといった感覚を掴むことにも苦戦しつつ、考えても作っても目処が立たない気持ちで展示後まで過ごした。

作品のコンセプトと作品を作る上で使う技術は人それぞれだから比べることはできないけど、作品を構成するのはそこだけではない。作品の伝え方・作品の持つ説得力、展示で鑑賞者に見せる技術がないと素晴らしいアイデアがあっても活かせない。こういった部分でまだまだやれることがあったなとすごく勉強になった。コンセプトや考えを作品にするのは“作るだけ”で済ますことができない、本当にパワーが必要な行為。わたしの作品に対して思うところはたくさんあるが、それでも最後までやりきれてほっとしている。この経験は作品の制作だけではなく、これから将来アートやアーティストをマネジメントする立場で関わる時も役に立つすごくいい機会だったなといま振り返って思う。

次回は執行くん、松谷くん、遠山さん、三ツ谷さんとわたしで集まって話したことを書こうと思う。意外にみんな同じことを考えていたり、悩んでいたり。アーティストである前にみんな生きている人間なんだなと、同時代の広島で学んでいるアーティストについて知って欲しい。わたしたちがどんな思いで作品を作っているのかすこしでも伝わればいいな。


▶︎after pink 2023(「Pink de Tea Time」で出会った5人による不定期な展示プロジェクト

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