広島と大分をつなぐアートの往来
2025.9.9(火)
HAGWに関わる広島のアーティストたちが大分で出品、HDL+ではOlectronica作品を紹介
今秋、広島と大分のアートシーンをつなぐ新しい動きが始まる。HAGW(Hiroshima Art Galleries Week)に関わってきた広島在住の三人の作家・諫山元貴、井原信次、手嶋勇気が、大分で同時期に展覧会へ出品する一方、広島ではHDL+の企画として大分在住の作家Olectronicaを紹介するアーティスト・ラン・スペース交換プロジェクトが展開される。地域間で作品と空間を交換するかたちの双方向交流は、現代美術における新しい関係づくりの試みといえるだろう。
まず諫山元貴は、大分市美術館が主催する「Meet Bamboo! コンテンポラリーアートと竹との出会い」に出品する。竹という自然素材と現代アートの出会いをテーマにした展覧会で、諫山は「崩壊」と「複製」を探る映像作品を通じて、素材の生命感と人間の営為の儚さを重ね合わせる。自然と人間、再生と消滅といったテーマが竹と結びつき、新たな解釈を呼び起こす展示となる。

諌山元貴
個展「BankART Under 35 2
0211 BankART KAIKO/横浜、2021
photo by TSUZUKI Toru
続いて井原信次は、「大分アートフェスティバル2025『回遊劇場 w@nder』」に参加する。市内の歴史的建築や地下道、駅構内といった日常の空間を舞台に、街を巡りながら作品と出会う芸術祭だ。井原は「大分の記憶・ゲニウスロキ」をテーマに立体作品を発表し、都市の歴史や土地に積み重なった記憶を掘り起こす。作品には、大分で出会ったアートユニットOlectronicaとの記憶や、亡きアーティスト佐藤雅晴(1973-2019)の痕跡も重ねられ、街の風景と個人の記憶が交錯するような場が生まれる。

井原信次
《マリー》、2025
手嶋勇気は、BEPPU PROJECTが主催するアーティスト・イン・レジデンス「KASHIMA2024」に去年参加し、2ヶ月間別府に滞在した。今年は同団体が主催する「Art Fair Beppu 2025」に参加する。温泉都市として国内外から多くの人々が集まる別府で、絵画を通じて風景や文化を描いてきた手嶋の作品が新しい観客と出会う。アートフェア特有の活気ある場で、作家と観客が直接交わることにより、作品の解釈がさらに広がっていくことが期待される。

手嶋勇気
《l’ve Got Peace Like a River (AID#61)》、2022
Photo by 橋本健佑
諫山と手嶋は広島県廿日市市でアーティスト・ラン・スペース「STUDIO PINK HOUSE」を共同運営している。地域に根ざした活動をベースにしながら、展覧会やワークショップを継続してきた二人にとって、今回の大分での展示は拠点活動の延長線上にある取り組みである。広島の地で育まれた表現が他地域での発表を通じて新しいつながりを生むことは、アーティスト・ラン・スペースの役割そのものを体現している。
こうした広島作家の動きと並行して、広島ではアーティスト・ラン・スペース「Hiroshima Drawing Lab」が「HDL+」へと改称し、2025年10月から新たにスタートを切る。HDL+は、これまでの活動を継承しつつも「+」の名が示す通り、常に新たな視点や関係を加えていく場を目指す。
その最初の企画が、大分を拠点とするOlectronicaの作品展示だ。ドローイング作品などを通じて彼ら独自の表現を紹介し、物理的な移動と思想的な交差を通じて、都市と都市、アーティストとアーティストの間に新しい関係が生まれるだろう。
Olectronica(加藤亮・児玉順平)は、大分を拠点に活動するアートユニット。彫刻やインスタレーションに加え、家具デザインや空間設計、蚤の市まで多彩な表現を展開している。2025年に大分市美術館で開催された個展「Newland〈O〉」では、高さ5メートルの人型を五角形に配した巨大立体作品《円環》を発表。壮大な構造によって空間そのものを彫るような新しい感覚を提示し、鑑賞者に強い印象を残した。

Olectronica
《Figure mobile 2025》
広島と大分を行き交う作品と表現の往来は、土地と記憶、作家と観客、都市と都市が交差する交感の風景を描き出す。そしてその交感は、HDL+が掲げる「発火点」としての役割を示すものであり、ここからまた新しい表現の連鎖に繋がっていくだろう。
このように広島の作家が大分で活動を展開し、大分のアーティストの作品が広島で紹介されるという往来は、単なる展示の並行開催ではなく、相互に呼応するネットワークとしての意味を持つ。HAGWを通じて培われてきた広島のアートコミュニティが、地域を越えて広がりを見せていることを象徴する出来事である。地方都市同士を結ぶアーティスト・ラン・スペースの連携は、現代美術の新しい展開を予感させる。
そしてこの時期、広島市中心部は多彩なイベントが重なり合う。カラフルな行進が街を彩るひろしまプライドパレード(10/11)、音楽や食、展示が集結するHIROSHIMA CONTI-NeW FeS(10/11〜10/13)、街全体がにぎやかな祝祭空間に変わる。HDL+は、今年リニューアルを終えた広島駅ビル「ミナモア」 からも徒歩圏内にあり、街歩きや観光の合間にぜひ立ち寄ってほしい。
アートと街と人が交わるこの秋、広島は一つの大きな舞台になる。あなた自身の新しい出会いを探しにぜひ足を運んでみてほしい。
《各展覧会情報》
⚫︎ 諫山元貴
「Meet Bamboo! コンテンポラリーアートと竹との出会い」
2025年10月3日(金)〜11月16日(日)/大分市荷揚複合公共施設1階 コモンスペース1
https://www.city.oita.oita.jp/o210/bunkasports/bunka/bijutsukan/special_exhibition/meetbamboo_contemporaryart.html
⚫︎ 井原信次
「大分アートフェスティバル 2025『回遊劇場 w@nder』」
2025年9月26日(金)〜10月26日(日)/大分市アートプラザ
https://oita-art-fes.com
⚫︎ 手嶋勇気
「Art Fair Beppu 2025」
2025年9月27日(土)〜29日(月)/別府国際コンベンションセンター・ビーコンプラザ
https://artfairbeppu.com
⚫︎ 企画展「交換/交感」アーティスト・ラン・スペース交換プロジェクト
・広島会場(Olectronicaによる展示)
会場:HDL+ (広島市中区鉄砲町4-5ブラック画材4F)
会期:2025年10月4日(土)〜10月24日(金) 11:00-17:30
休廊:日・月・祝日
入場無料
関連イベント:10月4日(土)、11日(土)、18日(土)「H COFFEE LIKE」カフェ出店(11:00-17:00)
https://hiroshimadrawinglab.themedia.jp
・大分会場(井原信次による展示)
会場:ギャラリー不図(大分県竹田市竹田町563-1 103号室)
会期:2025年9月27日(土)〜10月18日(土) 11:00-17:00
定休:火・水・木(祝日は営業)
入場無料
オープニングレセプション:9月27日(土)16-18時(作家在廊・入場自由)https://www.olectronica.com/katamukuie
※掲載画像と出品作品は異なる場合があります。
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