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【ひろしまアニメーションシーズン×ひろしまアートシーン(レポート:4)H-AIR 是恒さくらワークショップ 2022.7.25】

ねみの日記 #4 (2022/7/25)

久保田音美(広島市立大学国際学部3年)が
広島でアーティストやギャラリーの人々に
出会っていく体験日記

この日は街かどアニメーション教室「みんなでつくる川のまち」に参加した。

講師は是恒さくらさん。是恒さんはひろしまアニメーションシーズンの「H-AIR ひろしまアーティスト・イン・レジデンス」というレジデンス企画に参加していて、広島に半年間滞在して創作活動を行なっているそうだ。

ワークショップでは広島の西部にある八幡川・皆賀の歴史を踏まえて、川と人の関わりをアニメーションにした。会場はミナガルテン(minagarten)という元造園業者の建物を改築した施設。私は皆賀地区に行くのが初めてで、どきどきしながら向かった。ミナガルテンは住宅街の中に突如現れて、3階建だった。1、2階は食べ物とイベントスペース、プライベートサロンがあり、3階は準備中のアンティークショップ(現在はオープン)とワークショップスペースになっている。ミナガルテン全体から開放的な印象を受けた。窓がたくさんあって、出入り口も広く自然光や風がたくさん入ってきて気持ちがよかった。どの階にいてもミナガルテン全体の活気が感じられて誰でも気分が明るくなるような場所だ。(3階は冷房がきいてなくてちょっと暑かったけれど・・・)

1階にあった小さな本屋さん。子どもたちが走り回っていたので、誰もいないショットを撮るのに苦労した。

ミナガルテンは小学生や若い夫婦、40代50代ぐらいのステキなおじさんおばさんで賑わっていた。なんでも五日市にあるから五が付く日にはマルシェがあるそうだ。新鮮な野菜や美味しそうなクッキー、木でできた食器や小さな本屋さんなどが出店していた。

上に上がる時に見つけたポスター。青い紙に白文字で書くだけで川っぽい水っぽいイメージになるなぁと思った。
「みんなでつくる川のまち」の文字が可愛くてとった写真。油粘土で作っているのに文字のかたちが左のポスターと似ていて面白い。似ているのがわざとなのか立体として作っても同じ癖は出てくるのか、わからないけど。

ワークショップの会場は3階。3階にあがってみると、今までのアニメーション教室で調べたものや描いたもの、作ったものなどが飾ってあった。近くに皆賀の大きな地図もあり、それを見ながら、ここにも生活があってわたしが知り得ない人たちがたくさん生きているんだろうなと思った。わたしの住んでいる広島ですらこんなに知らない事がたくさんあって(近くだと思っているからこそかも)、私が知っていることや知れることのちっぽけさを改めて感じた。是恒さんから川の歴史や、名前の由来などを教えてもらっていると他の参加者も集まってきた。私以外には親子や小学生ぐらいの子どもが一人でも参加していた。みんなが集まってから、最初に今まで作った二つのアニメーションを見せてもらった。

除菌できるスケルトン鳥。

そこから実際の制作に入っていく。まずはなにもない、自然のままの川を青いビニールシートで作る。川を手で動かしながら川の流れを表現してコマ撮りしていった。コマ撮りで映像をつくるのは初めてだったので、どれぐらい動かして良いのか、どんな形にしたらいいのか、是恒さんはどんな動きが撮りたいんだろうと考え込んでしまい、気持ちだけ川に手を添えてあまり動かさずにいた。すると小学生の参加者が思うままに縦横無尽に動かし始めた。こういうとき、子供って強いなと思いながら私も少し大胆な動きをする事ができた。ちょっと動かしすぎ(もはや川の動きではない、洪水?)なところもあったがそういうハプニングも面白い。

川を撮影する是恒さん。カメラの固定は養生テープぐるぐる巻きでいいんだ…。
ベトベトしないかな。あと、是恒さんの腰巻?とても可愛かった。目を引く。

次は川の周りを工事するシーン。皆賀を流れる八幡川も江戸時代に付替工事があったらしい。積み木のようなものを川に添え、川の形を整えていった。

いよいよ本格的な制作に入り、川沿いに建てる自分の家と庭を作っていく。材料はフェルト、糸、油粘土、厚紙、カラーペン、両面テープなど。わたしはなんとなくヴィジュアル的に荒川修作の「三鷹天命反転住宅」のようにしたいなと思い、カラフルで多様な素材と形、なんでここにこれが?となるように意識した。変な生きものも欲しかったので変な生きものが食べる庭の草はカラフルな紐で作り、生きものは油粘土で虹を食べたナメクジみたいなウミウシみたいな子にした。作ってからウミウシって海の生き物じゃん…と思ったが、川は海に繋がってるからこの子は海からバカンスに来たんだということにして、セーフ。

ひと段落するとまた撮影に戻る。これを2回繰り返し、3回目で家の完成、賑やかな街になったことを表現するシーンに入った。他の参加者も普通のお家以外にヘリポートを作ったり、水族館を作ったり、ビルを建てたりとカラフルで面白い街になった。川の周りの地面にも落書きをして違う街や家同士を繋ぐ道を作り、家や生きものを動かして作品のコマ撮りは完成した。

みんなで道を描いている様子。
マーカーで川に橋をかけている強気な小学生。

最後に是恒さんが軽く編集した今日の作品を鑑賞した。どんなふうに動くか全く想像できない中で動かしてみて不安だったけど、小さな動きでも意外にしっかり違いがわかって面白かった。久しぶりに小学生や中学生の頃大好きだった工作みたいな作品作りをしてみて手を動かすことっていいなと実感した。最近は考えてばかりで悶々としていたから、結局こうやって外に出て、動いて、何かが形になって、モノを残したり感じたりする事がわたしの心にとって一番落ち着く行為で、豊かになる。

急いで編集している是恒さん。その間にわたしたちは掃除をしてました。ちなみにわたしの作品はこの時に捨てちゃった。映像があるからいいんです。
映像を流している様子。
みんなから自然にうわぁ…と声が出て面白かった。
周りのイラストは是恒さん作。

ここからは家に帰り、ひろしまアニメーションシーズンに掲載されている是恒さんの記事やインタビューを読んで気づいたことについて書く。→記事はこちらから。

私はワークショップの中で川を工事したあとに賑やかで楽しい街を作ろうと言っていた部分にあまり共感できないでいた。人の力で川や街、ひいては地球環境が大きく変化することを肯定的に捉えられないでいたためだ。私の住んでいる家も山を切り崩した住宅地にあり、昔つくしがたくさん生えていた場所がコンクリートに固められたりして土地が変化してきた。そういう変化に対して、寂しさや「ここは私の知っている場所ではない」という感覚を強く持っている。この感覚はせいぜい数十年の自然と人間の関わりに対する視点だ。

一方、是恒さんはわたしより大きな視点で、数百年の規模で自然/地球と人間の関わりを見つめているのだと感じた。そうすると肯定や否定からすこし距離を置いて人を超えた観測者のような視点で物事を見ることができるのかもしれない。そう思うと、人間が自然を変えていくことも摂理というか、自然だという風にも考えられる。わたしの経験の中では、街が知らない人の手で勝手に変わっていってしまい、「何が起きているの?」という感覚になっていたのだが、実際に工事した人やもっと間近で変化を知ろうとした人にとっては変化は愛着になるのかもしれない。今回のワークショップで作った仮想の土地も映像を見るころには愛着が湧いたし。立場によって全然違う。とはいえ人間が自然を変えることができると思うことは傲慢だなぁとは思うんだけど。結局ぐるぐる考えてまとまりがなくなってしまったけど、こういう疑問や割り切れなさを抱えて作品と向き合うことがわたしの考えを深めていくと思うので、取り急ぎ今回はここまで。

ひろしまアニメーションシーズン2022の特集テーマは「水」。gallery Gでも「水」をテーマに作品が展示されていた。記事を書いて、作品を見て、と繰り返しているとぽつぽついろんなアイディアが浮かんで面白い。こうやって自分の考えを広げていくことで自分が満たされていくように感じる。考えるって興味深いですね。


▶︎ねみの日記 #1 (2021/12/15) 
▶︎ねみの日記 #2 (2022/1/19)
▶︎ねみの日記 #3 (2022/3/21)


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